2010.8.22 22:33 MSN産経ニュース
新型インフルエンザに関して政府が昨年8月21日に「流行入り」を宣言してから1年になる。昨夏は各地で新型インフルが蔓延(まんえん)したが、今年は目立った感染報告はない。今年8月10日には世界保健機関(WHO)がパンデミック(世界的大流行)の終息を宣言した。危機は去ったのか-。世界の状況と専門家の分析から、今年の動向を探った。
「最も激しいウイルスの活動期は過ぎた」
今月10日。WHOのマーガレット・チャン事務局長はそう切り出して、パンデミックの終息を宣言。フェーズ(警戒水準)を「ポスト・パンデミック期」(最盛期越え)に切り替えた。
WHOにとっては昨年6月にパンデミックを宣言して以来、1年2カ月ぶりのフェーズ変更となった。
豪州など冬を迎えている南半球が現在、インフルの流行期にあたるが、「流行規模は普段の季節性程度。パンデミック時は新型が季節性ウイルスの感染活動を抑えたが、そのようなこともない」(チャン事務局長)というのが主な理由だ。
■第2波で拡大も
国内でも今夏は流行入りの兆しはない。国立感染症研究所によると、8月15日までの1週間で、報告のあったインフルエンザ患者数は162人。1医療機関あたりの患者数が1人を超えると流行期とされるが、今はまだ0.04人にとどまっている。昨年の同時期は、1.69人だった。
「多くの人がすでに免疫を獲得しており、このまま冬までほとんど流行しない可能性もある。少なくとも去年のような大きな流行はないだろう」。そう話すのは、元北海道小樽市保健所長で、インフルに詳しい外岡立人氏。現在、流行がみられる香港でも新型は少なく、主流は新型でなく、季節性のA香港型という。
しかし、東北大の押谷仁教授(ウイルス学)は「油断は禁物」と警告する。過去の例では、再流行した第2波で被害が拡大したこともあるからだ。
実際、ニュージーランドやインドなど南半球の一部の国では今年、昨年を上回る流行を見せているという。押谷教授は「日本の場合、昨年の流行では高齢者や妊婦などリスクの高い人に感染が広がらなかった。今年この層に感染が及べば、大きな被害をもたらす危険がある」と話す。
■ワクチン接種に変化
WHOがパンデミック終息を宣言したことで、いつまで「新型」と呼び続けるかという問題も出てきた。
厚労省によると、今回の新型インフルを「新型」と呼んでいるのは日本ぐらい。世界では「パンデミック2009」や「スワインフルー(豚インフル)」などと呼ばれている。
日本での「新型インフル」という名称は感染症法で元々、規定されており、「新型」を外すには、厚労相が「国民の大部分が免疫を獲得した」と判断する必要がある。
厚労省によると、「新型」でなくなったとしても、国の対策は弾力運用されているため大きくは変わらない。しかし、ワクチン接種の費用などが少し変わってくる。
新型インフルの場合、ワクチン接種は国の事業で、接種費用も行政が決める。低所得者には接種費用を助成する制度もある。しかし、新型でなくなれば通常の季節性と同じ任意接種となる。接種費用は医療機関が独自に設定。低所得者への助成もない。
北里大の和田耕治講師(公衆衛生学)は「ワクチンを打った人を入れても免疫を持っているのは国民の3割程度。新型と呼ばなくなることで国民の意識の低下も懸念される。あと一冬くらいはこのまま様子を見ても良いのではないか」と話している。